黒点不良とは、成形品の表面や内部に黒色または暗色の斑点・筋状の痕が生じる現象を指します。射出成形業界では比較的よく見られる不良の一つであり、品質に大きく影響するため、対策が重要です。視覚的には、小さな点状の欠陥として現れる場合や、線状の「黒条」として観察される場合もあります。製品全体にランダムに発生することもあれば、ウェルドラインやリブ周辺、あるいは材料が最後に充填されるコーナー付近など、特定の部位に集中して起こるケースもあります。
黒点の形状は多様で、樹脂が炭化してもろくなった痕跡が見られたり、金属などの硬質な異物が混入している場合もあります。非常に小さな黒点だと、ボイド(空洞)や他の微小な不良と紛らわしいため、詳細を確認するには顕微鏡などを用いた検証が必要になることもあります。
黒点の見え方と特徴
大きさ・形状がまちまち:粒状、スジ状、雲状などバリエーションが多い
素材感の違い:
- もろく層状に崩れるもの → 樹脂の熱劣化が疑われる
- 硬い破片状で残るもの → 金属など外来異物の可能性
肉眼で区別しにくい微細欠陥:気泡やシルバーストリークと紛らわしいケースでは、顕微鏡観察が有効
主な原因は「炭化物」か「異物混入」
黒点不良は、大きく「樹脂の炭化によるもの」と「異物汚染によるもの」の2種類に分類されます。
| 原因 | メカニズム | よく見られる発生要因 | 推奨対策例 |
|---|---|---|---|
| 樹脂の炭化(熱劣化) | シリンダー内で高温・長時間滞留した樹脂が分解し、炭化粒子を形成 | 連続成形での停止/再起動、シリンダー温度の過設定、逆止弁の摩耗 | 温度プロファイルの最適化、停止時のクイックパージ、スクリュー・逆止リングの磨耗点検 |
| 外来異物の混入 | 溶融樹脂に異物が入り込み、固化して黒点化 | 金属摩耗粉、前回材料の残留、ホッパー内の粉塵・繊維、原料ペレット自体の汚染 | 原料ろ過・選別、色替え時の完全パージ、周辺設備の清掃、磁選機・ストレーナーの併用 |
ワンポイント
パージ剤を活用すると、炭化しかけた樹脂や前回材料を短時間で洗い流し、黒点のリスクを大幅に下げられます。色替えや長時間停止前後の”定番ケア”として定着させることで、トラブル発生頻度を抑えられます。
類似欠陥との見分け方
黒点不良と混同しやすい欠陥はいくつか存在しますが、それぞれ発生メカニズムが異なるため、正確な区別が必要です。
| 欠陥名 | 典型的な外観 | 発生メカニズム | 黒点との違い |
|---|---|---|---|
| ガス焼け | エッジ部に焦げたような黒/茶色の斑点・スジ | 金型内に閉じ込められた空気が断熱圧縮で高温化し樹脂を焼く | 固体粒子ではなく表面の焼け跡。原因は空気巻き込み |
| シルバーストリーク(銀条) | 樹脂表面に銀色の筋 | 樹脂中の水分・揮発分が瞬間蒸発して筋状跡を残す | 黒くない・気泡由来 |
| フローマーク | 流動方向に沿った縞模様 | 樹脂の流速変化や冷却差による表面模様 | 異物ではなく流れ起因の表面模様 |
まとめ ― 黒点ゼロへ向けた現場視点
- 最初に温度と滞留時間をチェック:設定温度が適正でも、スクリューのデッドスペースで炭化が進む場合があります。
- パージをルーティン化:色替え前後はもちろん、長時間成形を続けた後や休日明けの立ち上げ時には必ずパージを行い、残留樹脂を除去しましょう。
- 異物対策は”入り口”と”通路”で二重ガード:原料受入時の検査と、ホッパー・シリンダーへの投入経路にストレーナーや磁選機を設置するダブルチェックが有効です。
- 見分けがつかない時は顕微鏡確認:肉眼だけに頼るとガス焼け等と混同しやすいため、原因特定のスピードを上げるためにも簡易顕微鏡を常備することを推奨します。
黒点不良は「完全にゼロにするのが難しい」と言われますが、発生頻度を”管理できる範囲”に抑えることは十分可能です。射出成形機の健康診断(スクリュー磨耗点検)、適切な温度管理、そして高性能パージ剤の定期使用が、安定した量産と歩留まり向上への最短ルートとなります。


